新薬の作り方

新薬の研究開発での「研究職」と「開発職」の違いとは

製薬会社の新卒採用サイトを見ると、「研究職」と「開発職」という職種が記載されています。

新薬開発での「研究」と「開発」については、こちらの記事に書きました。

 

新薬の研究開発における「研究」と「開発」の違いとは医薬品開発における研究と開発の違いを企画部門経験者が解説。研究は新薬候補物質の選定までのプロセスで、開発は開発品の有効性・安全性を確認し、製造法・品質管理を決定するプロセス。新薬開発は研究ステージで候補物質の選択をし、開発ステージで臨床試験と商品化検討を行い、承認申請をする。研究ステージは、プロジェクトの起案から開発品選択までの期間を指し、研究所内での実験が主になる。研究ステージの期間は通常2〜3年程度。...

 

それでは、「研究職」と「開発職」では、どのような違いがあるのでしょうか?

この記事では、新薬開発での「研究職」と「開発職」の違いについて、これらの職種の仕事内容を踏まえながら紹介します。

新薬開発での「研究職」と「開発職」の違い

 

研究職と開発職の違いは、業務における「実験」の有無です。

そして、研究職と開発職の仕事を一言で書くと、

研究職は実験から医薬品を作る、開発職は臨床試験から医薬品を作る

となります。

新薬開発のプロセスの中の「開発ステージ」には、実験を伴う作業も含まれます。開発ステージでの実験を担当するのはあくまで研究職で、開発職は臨床試験にほぼ特化した業務を行います。

研究職の仕事

研究職の仕事は、調査、研究計画立案、実験計画の策定と実行、実験結果の解析に分けられます。

研究職では、実験と同じくらい調査や計画策定、解析に時間を使います。「研究職は実験ばかりしている」というイメージがありますが、実情は実験前後の作業が大事という感じです。

調査

学術論文の読み込みや学会への参加、専門家へのインタビューなどを通じ、新薬のアイデアの種となる情報や、実験に必要な技術情報の収集を行います。

研究計画立案

研究方針、達成目標、次ステップへの判断基準などを、研究員同士の会議で何度も議論しながら策定します。

実験計画の策定

時間と費用をにらみながら、データを得るために必要十分なスケジュールと手順(プロトコール)を設定します。特に、結果が出るのに何ヶ月もかかる長期試験の場合には、効率的なスケジュール策定とデータ取得手法を考える必要があります。

実験

プロトコールに従って必要な作業を行い、実験の記録を取ります。ただ、実験によっては職人芸的な技術が必要なこともあります。最近は、データサイエンスやAIなどの技術を用いて、実験を行わずに結果を予測する方法も用いられます。

実験結果の解析

実験結果から次にどのような手を打てばよいかを考察します。結果がポジティブであれネガティブであれ、この考察がプロジェクト成功の鍵を握ります。

開発職の仕事

開発職の仕事は、臨床試験や商品化の計画立案と、臨床試験のマネジメントに分けられます。

これら2種類の業務は性質が大きく異なるので、同じ開発職といっても異なる部署が担当します。

臨床試験や商品化の計画立案作業は、開発ステージの企画業務を担当する部署が行います。臨床試験のマネジメントは、臨床開発部門と呼ばれる部署が担当します。

臨床試験の計画立案

臨床試験の計画立案では、対象となる被験者の人数、被験者の採用基準、薬剤の投与量、投与期間、評価項目、実施する国などを決定します。

Phase1試験では、ヒトに投与した経験のない薬剤の安全性を確認することになるので、計画立案は非常に重要です。

研究ステージや開発ステージで得られた様々なデータから、薬剤が安全に投与できる投与量を推定し、もし安全性に問題が生じるならどのような変化が起こるかを推定、その時の対応策も策定します。

Phase2試験以降では、患者に対する有効性、安全性を確認する試験になるため、安全性を確保しつつ有効性を示す投与量を推定し、効果を示すの必要な投与期間、評価指標を策定します。

商品化計画の立案

商品化計画では、効果が期待できる患者、安全性などの観点から薬剤が使用できない患者をどう設定するか、現在の治療法の中に開発品をどう位置付け、他の薬剤に対する優位性をどうアピールするか、を考えます。

そして、商品としてのメリットを示すためにどのような臨床試験が必要かも考えます。

商品化計画の立案と臨床試験の設計は、補完的な関係にあります。商品としてのアピールポイントが設定できないと効果的な臨床試験は設計できませんし、臨床試験で明確なデータが出ない場合には、商品の特徴づけが難しくなります。

この辺りは、企画担当者の腕の見せ所ですね。

臨床試験のマネジメント

臨床開発部門は、企画部門が策定した計画に従って、臨床試験を実行し、マネジメントします。

臨床試験(治験とも言います)は、GCPGood Clinical Practice)とよばれる公的基準に従って実施しなければなりません。

臨床開発部門に属するモニターと呼ばれる職種の社員は、臨床試験が、GCPや設定された手順(プロトコール)に従って、適切に実施されているかをモニタリングします。

患者を確実に集めることができる医療機関をいかに確保するか、という点も非常に重要です。臨床試験の被験者の集まりが遅いと臨床試験のデータが取得できず、開発スケジュールの遅延に繋がるためです。

まとめ

研究職と開発職の違いは、業務における「実験」の有無です。

研究職は実験から医薬品を作る、開発職は臨床試験から医薬品を作る、という役割分担で新薬開発に関わっています。

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