内資系企業の医薬品研究開発部門(研究所)で、企画業務を担当しているけんたです。
新薬研究では、様々な分野のサイエンスの知識を使います。研究者の場合、新薬候補化合物を合成したり効果を評価するのが業務なので、自分の業務に関わる分野について深いレベルの専門知識が必要になります。
それでは、新薬研究の企画業務に求められるサイエンスの知識レベルとはどのようなものでしょうか?
10年以上企画業務に携わってきた自分の経験から振り返ると、業務を行うためには、
- 研究に関する専門的な会話の7〜8割は質問なしで理解できる
- 辞書や用語集を用いることで、新薬開発に関連する学術論文が大体理解できる
- 理解できないことはどこか明確に質問できる
ことが必要です。
そのためには、以下のようなサイエンスの知識レベルが必要です。
新薬開発の必要な化学、生物学、薬理学などの分野を広く浅くカバーできる、高校から大学1〜2年で学ぶ内容の知識レベル。ただし、一つの分野では研究者や専門家と同等レベルの深い知識。
以下、企画部門業務でのサイエンスの知識の使い方と求められるサイエンスの知識レベルについて、具体的な例を用いて紹介します。
企画部門業務で求められるサイエンスの知識レベル
新薬開発企画部門の業務は、大きく以下のように分けられます。
- 情報収集
- 研究テーマの企画、管理
- 外部リソースを用いた研究課題の解決法の立案/企画
これらの業務で求められるサイエンスの知識レベルはどのようなものでしょうか?
競争が激しい製薬業界では、まだ手がつけられていないメカニズムに基づく、オリジナリティが高い薬剤の開発が必要です。また、将来、自社製品のライバルとなりうる治療法、薬剤については、自社製品がどのように優れているかをアピールすることも必要です。
これらのニーズを満たすために、企画部門では広い範囲をカバーする様々な情報を入手しまます。これらの情報は、企画部門で整理分析された上で、研究所全体の研究戦略や研究活動における重点施策の企画立案、研究活動の課題に対する解決法の立案などに利用されます。
また、実際に研究テーマの企画/立案を行う場合、企画部門は社内研究者と社外専門家の専門的な議論に参加し、研究テーマ管理や課題解決の立案など側面からサポートします。この業務を円滑に行うには、研究者や専門家との共通言語であるサイエンスの一定程度の理解は欠かせません。
これらの業務を行うには、下記のような分野について基本的な知識が必要となります。
- 医薬品のメカニズムの理解:生物学、生化学、生理学、薬理学、毒性学など
- 医薬品の合成法/分析法:有機化学、分析化学、物理化学など
- データ妥当性の判断:生物統計学
これら全ての分野について、高校から大学1〜2年で学ぶ内容の知識レベルがあれば、「どこがわからないのかがわからない」という白紙の状態で業務に臨まなくてはいけないという状況は避けられます。
各領域の「キーワード」や「基本原理」を広く浅く押さえておけば、わからないことがあってとしても、それを書籍や総説などで調査する際の助けとなり、効率的に知識を広げることが可能です。
経験に基づいた知識レベルの底上げも必要
企画業務には、広く浅い知識が必要ですが、それだけでは、研究現場の研究者や外部専門家とのコミュニケーションは中途半端にならざるを得ません。
やはり、何か一つの分野については、深い専門知識を有することで、より深いコミュニケーション、情報の入手・理解が可能になります。
例えば、大学院修士レベル、つまり、ある特定の分野における研究経験で得た知識は、企画業務において大きな助けとなります。また、入社後に、新薬開発の実務から得られた様々な知識も非常に有用です。
専門家レベルの知識を有することのメリットは、コミュニケーションや情報の理解に有利な点に加え、これらの知識を得る過程で知識を手に入れ理解するプロセスが身につくということにあります。
わからないことをどう調べるか、その正確性をどう担保するか、という勘所は、経験によって得られることが多く、勘所を掴むことによる効率的な知識の吸収が、がさらに知識レベルの底上げに繋がります。
このような事情を考えると、企画部門の業務を新入社員にいきなり担わせるのは少々無理があります。そのため、私の所属する研究企画部門の社員はすべて、数年以上の研究員の経験を持っています。
まとめ
研究所の企画部門に求められるサイエンスの知識レベルは、新薬開発に関わる高校〜大学生レベルの広く浅い知識と、専門家とコミュニケーションができるレベルの特定分野の深い知識です。
これらの知識は、学生時代に習得され、研究所の実務経験により底上げされることで、企画業務に使えるレベルに達します。