企業の研究開発部門は、「研究」を表す”Reseach”と「開発」を表す”Development”をあわせてR&D部門と呼ばれます。
この「研究」と「開発」の違いはなんでしょうか?
一般的には、「研究」は商品開発の基盤となる基礎技術を作り出すこと、「開発」は研究で得られた技術を応用した新製品を作り出すこと、と説明されることが多いです。
この記事では、企画部門の目線から、新薬開発における「研究」と「開発」について、わかりやすく説明します。
これらの概要を把握することで、医薬品開発の流れがつかみやすくなると思います。
新薬の研究開発における「研究」と「開発」
新薬の研究開発における「研究」と「開発」の意味をまとめるとこんな感じです。
研究 | 臨床試験に進める新薬候補物質(開発品)を1つ決定するまでのプロセス |
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開発 | 公的に定められた基準に基づいて、開発品の有効性・安全性を確認し、患者に投薬される薬剤の製造法・品質管理を決定するプロセス。 |
医薬品の開発は、研究ステージで多くの候補物質の中から開発品を選び、開発ステージで開発品を用いた臨床試験と商品化検討を行ない、行政機関(日本だと厚生労働省)に新薬製造販売に関する承認申請を行う、という順序で行われます。
- 「研究」は、臨床試験に用いる開発品を選ぶステージ
- 「開発」は、開発品を商品にするためのステージ
といえますね。
研究ステージ
研究ステージは、研究テーマの起案から開発品選択までの期間を指します。
研究テーマの起案では、対象とする病気における医療現場・患者のニーズを満たすためにどのようなメカニズムの薬剤が必要かについて、最新の医学・生理学の知見を用いて設定します。
その後、設定したメカニズムで作用を示す新薬候補物質を探すための研究計画を生物学や有機化学の最新技術に基づいて立案します。
ここからの作業は、化学合成や動物実験など、一般的に「研究」という単語でイメージされる「実験室での実験」が主になります。また、新薬開発に必要な技術開発や基礎研究も、研究ステージで行われます。
数多くの新薬候補物質の有効性や安全性を評価しながら、候補物質の改良を繰り返し、最良の化合物を開発品として選択します。
研究所内での活動がほとんどを占めますが、技術開発や基礎研究では大学や他企業(スタートアップ)との共同研究を行う場合もあります。
研究ステージの期間は、通常2〜3年程度ですが、研究テーマの難易度によってはこれより長い・短いこともあります。
開発ステージ
開発ステージでは、臨床試験と商品化検討を行い、それらの結果をもとに、新薬を製造販売するための承認申請の準備を行います。
臨床試験を始める前に、開発品の有効性・安全性・製剤(錠剤、カプセル剤など)の品質などについて、公的な基準に基づき確認します。大量の薬剤が必要なため、大量製造法も検討します。
臨床試験は、通常Phase1試験→Phase2試験→Phase3試験の順で行われます。
Phase1試験 | 少数の健常人を対象に、安全性・安全に使用できる投薬量を調べます。 |
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Phase2試験 | 比較的少数の患者を対象に、有効性・安全性・有効性を示す投薬量を調べます。 |
Phase3試験 | 多数の患者を対象に、Phase2試験で設定した投薬量での有効性・安全性を確認します。 |
Phase3試験では、実際に商品となる薬剤を使用するため、商品化検討は臨床試験の早い段階で始まります。
Phase3試験で、有効性・安全性が確認されると、開発ステージで得られたデータをもとに、行政機関に新薬製造販売に関する承認申請を行うことになります。承認申請に必要な、膨大なドキュメントの作製も開発ステージの重要な作業です。
このように、開発ステージでは幅広い分野の作業が行われるので、様々な部署・施設が関わることになります。
臨床試験の計画立案や解析、商品化検討の計画立案、ドキュメント作成などのデスクワークは、本社オフィス主体で行われます。
臨床試験は、多くの病院・診療所で行われます。臨床試験サンプルのデータ測定には研究所も参加します。
開発ステージは、長い場合には10年近くかかります。近年は、複数の国々で同時に臨床試験を行うことも多く、多額の費用がかかります。そのため、研究ステージで良い開発品を選ぶことは非常に重要です。
まとめ
新薬の研究開発における「研究」と「開発」とは、
- 「研究」は、臨床試験に用いる開発品を選ぶステージ
- 「開発」は、開発品を商品にするためのステージ
とまとめることができます。
「研究」と「開発」を理解することで、医薬品開発の流れがつかみやすくなると思います。