内資系企業の医薬品研究開発部門(研究所)で、企画業務を担当しているけんたです。
研究現場では、研究職と企画職が一緒に仕事をする機会が多いです。
研究所全体の研究方針設定や効率的な研究活動に必要な施策の企画は、企画部門の大事な業務です。これらの業務を円滑に行うには、実際に研究活動を担当する研究職と良好なコミュニケーションを取ることが鍵となります。
これまでの私の経験から、企画職と研究職のコミュニケーションで重視する視点は以下の3つです。
- アイデアを広げるための視点
- リスクを見つけるための後視点
- 第三者としての視点
この記事では、これらの視点の説明と、なぜ重視しているかの理由について説明します。
アイデアを広げるための視点
研究員が、企画部門に新しい研究テーマや共同研究の提案、現在実行中の研究テーマやプロジェクトに関する相談などを持ち込むことはよくあります。
そのような場合は、研究員の話を否定的な目線で見るのではなく、まずはアイデアを広げてより面白く、実行可能性が高まるような提案、研究計画にできないか、という前向きの視点で研究員から話を聞きます。
また、企画部門から、外部リソースの利用など、研究を円滑化、効率化させるための情報・アイデアを提案することもあります。
これらのアイデアや提案について、妥当性やリスクを考えることはもちろん必要です。しかし、最初に話を聞く段階では、敢えて、前向きな話をするように心がけています。
ポジティブな気持ちでやりたいこと、やるべきことを沢山引き出すことで、提案の具体性が増してきます。すると、それに伴って提案のリスク、足りない点が見えてきます。妥当性やリスク評価、対応策の検討は、その段階で始めても大丈夫です。
加えて、最初から後向きの議論をすることで、研究員のモチベーションを落とすようなことは避けたいですね。
リスクを見つけるための視点
やりたいこと、何をやればよいか、の具体的な内容が見えてくると、次はリスクを見つけるための視点が重要になります。
新薬開発においては、予測できない要素が数多く存在します。
- 有効性・安全性について、動物実験での結果が臨床試験で確認できないことはよくあります。これは、現状の技術では、事前予測できない項目があることを意味します。
- 競合他社が存在する場合、他社製品のスペックが公表され、自社製品よりも優れていることが明らかになると、いきなり不利な立場に追い込まれることもあります。
- 数百種類の化合物を合成しても、目指すスペックを有する化合物が得られないこともあります。
考えている提案や計画について、これらの要素に当てはまるリスク・課題があるのか、どの程度の確率で起こるのか、回避が困難なリスクがあるとしても計画を実行する価値があるのか、を研究職と一緒に考えることも企画職の役割です。
研究には必ずリスクが存在します。だからこそ「想定できるリスクを見逃す」ことは、可能な限り避けるべきです。そして、リスクに対する対応が提示されない提案や研究計画は不十分と言わざるを得ません。
企画職は、経験と情報からリスクを検討・評価し、研究職をサポートします。
第三者としての視点
研究活動では、判断を必要とする場面がたくさん出現します。例えば、研究テーマで想定外のリスクが顕在化した場合です。
このような場合、研究職は、研究テーマをどうするかについて方針案を作成します。つまり、「そのまま前に進む」「立ち止まって対応策を検討する」「撤退する」のいずれかを提案し、研究所上層部の判断を仰ぐのです。
方針案の策定は、客観的な材料(情報、実験データ)に基づいて行われるべきです。しかし、実際は、研究職の思い(主観)がどうしても入ります。研究テーマへの思い入れが、楽観的な想定を導き、誤った対応を招くことは避けなければいけません。
そのため、企画職には、第三者的な立ち位置で研究テーマを判断する視点が求められます。企画職には、データを客観的に評価し、研究所リソース配分などの社内環境も踏まえたアドバイスを研究職に提供することが求められます。
まとめ
企画職と研究職とのコミュニケーションにおいては、最初から否定的な視点に立つことなく、かつ第三者的視点からリスクやGo/Nogo判断についてアドバイスする姿勢が重要です。
アイデアを語り合うときはワイワイガヤガヤ仲良く、リスクや判断を議論するときは厳しい目線で、というマインドセットを常に意識して仕事をしています。