企画部門は、「研究員では対応できない研究上の課題の解決法」を企画することが仕事です。
これは「研究で困ったら企画部門にお願いしよう」という流れで仕事が決まることが多いということでもあります。
そのため、企画部門が扱う業務では「調整」が大きな要素を占めます。
企画という名前からすると、新しい企画を打ち出すことがメインのようにも見えますが、実際業務を振り返ってみると、調整作業は相当多いですね。
調整作業は、「ストレスの素」でもあり、「喜びの素」でもあります。
この記事では、企画部門での「調整」という仕事を、自分の経験を踏まえてわかりやすく紹介します。
社内研究テーマの調整
研究所では、たくさんの新薬研究テーマやプロジェクトがあり、様々な専門分野を持つ研究員がメンバーとなって研究活動を行っています。
研究員の研究分野
化学系 | 新薬候補となる化合物を設計し、合成する |
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生物系 | 化合物の効果や安全性を評価する |
分析系 | 化合物の体内での濃度変化や代謝による変化を評価する |
計算系 | コンピュータを用いた解析技術を用いて、化合物設計や有効性予測を行う。 |
研究の流れ
化学系研究員が合成した化合物を、生物系・分析系研究員が評価、計算系の研究員も交えて実験結果を考察し、次に合成する化合物の合成計画に活用する。
それぞれの研究員は、自分の専門知識と経験に基づいて、研究方針や実験を計画・実行します。
しかし、新薬の開発は、研究員一人一人が勝手に研究しているわけではありません。
研究計画の策定には、複数部署のスケジュールや作業量の調整が必要です。また、結果の考察では、様々な専門分野の視野を介した議論が欠かせません。
これらの過程では、それぞれの部署の事情や考え方の違いから、意見の相違や衝突が起こります。これらは、あくまで研究テーマを前に進めたいという気持ちの表れなのですが、感情が前面に出たりすると、冷静かつ客観的な判断や考察ができない場合もあります。
そのような場合には、企画部門が間に入って調整します。
研究員と話をしながら研究テーマ全体の状況を把握し、それぞれの部署の課題や意向を俯瞰的な視点から捉えて、研究テーマが最も効率的に進むことができるよう、議論の方向性を整理します。
企画部門が頭を使ってアイデアを出すこともあれば、担当研究員の代理として各部門のマネジメントと話をし、部署間のコミュニケーションのずれを修正することもあります。
このような調整作業では、各研究員・部署の専門分野に関する広い知識、人の話を傾聴する姿勢、散らかった議論を整理し議論の軸を抽出するファシリテーション能力などが必要です。
これらの能力は、研修で短期間に習得できるわけではありません。実地での業務経験(=失敗)や先輩・上司からのアドバイスによって、体で覚えていくことになります。
社外コラボレーションの調整
社外コラボレーションの調整は、社内プロジェクトの調整に比べ、状況はさらに複雑です。
会社間での考え方の違い、大学と企業の考え方の違いから、話し合いが進まなくなることはよく起こります。
コラボレーションの準備段階では金銭面や知財管理など契約条件に関する考え方、実行過程では、研究方針や研究継続・中止の判断基準の考え方について、意見の衝突が起こることが多いです。
このような場合には、社外との交渉だけでなく、社内の意思統一や合意形成も必要となります。、研究現場がやりたいことと、ビジネス面における利益とのせめぎ合いになることも多く、社内研究テーマの調整に比べて、調整作業には大きなエネルギーを使います。
その分、コラボレーションが無事開始・円満終了したときの達成感・爽快感は大きく、感謝の言葉をかけられたときには、企画業務のやりがいを感じます。
まとめ
新薬開発には、様々な部署の研究員、他社、大学など、様々な人々が、それぞれの立場から関わります。
メンバーには、それぞれの立場・考え方があり、研究テーマを前に勧めたいという強い思いの反作用として、意見の相違や衝突が発生します。
そこで、企画部門は「調整」という作業を通じて、メンバーの立場・考え方を俯瞰的な視点から把握し、研究テーマが効率的・発展的に進むよう議論の方向を整理します。
なかなか大変な業務ですが、無事に調整作業をやりきったときの達成感、感謝の言葉をかけられたときの嬉しさは、言葉にできないものがありますね。